経絡の気の流れの速さと方向性
についての実験


(I)実験目的


 経絡中の、あるいはIの章の実験結果から、生体の経絡であると思われる真皮結合織中の、気エネルギーの流れる速度や方向性について調べる。

(U)測定法


(1)経絡の選択
 肺経、脾経(肺経、脾経はともに太陰経に属し、密接な関係―三陰三陽関係―をもつ)、心包経、三焦経(この2経は陰陽関係にある)等を測定対象とし、各経を一つ測定する場合と、肺―脾、あるいは心包―三焦というふうに、三陰三陽関係の2経、あるいは陰陽関係の2経を同時に測定する場合とがあった。
 これらの経を選んだ理由は、脾経を除きすべて手に属し、測定しやすいためである。

(2)測定点と電極
 右手首あるいは額に脳波用皿電極を不関電極とし、電極糊を付けて接着し、アースに落とす。
 関電極は長さ5mmの皮内針の尖端1mmを露出し、他の部分はシールドした針電極を、各経絡の4〜8コの経穴に深さ2〜3mm挿入し真皮結合織に到達せしめ、皮膚上の部分を紙テープで固定する。

(3)測定法
 EEGの紙送りスピードは0.75cm/secあるいは1.5cm/secとし、初め3〜5分をコントロールとし、後10〜15分を刺戟実験とする。刺戟点は各経絡の井穴(指尖部、爪の基部の外側約3mmのところに位置する)か原穴(各経の手根関節の近辺にある)あるいは他の点を選び、そこに寸3、3番の針を2〜5mm挿針(真皮結合縁に達する)置針するか、それを1秒に1回叩針する。また温灸を1〜2分間行なう。更に井穴あるいは原穴に−極 右手首の不間電極に+極を繋ぎ、0.5〜1.5V、10c/sの矩形波電気刺戟を行なう場合もある。
 上述の種々の刺戟によって当該経絡が興奮し、気エネルギーの流れが増加し、それが電気現象として現われたものがデータ上で測定される。

(4)被験者数
被験者数は6名である。

(V)データの考察


1)GSRと経絡反応の相違


GSRは、身体への強い物理的刺戟(熱、強電気,抓る等)や強い感情の動きが、ある神経過程を経て交感神経を興奮せしめ、この交感神経の興奮が汗腺細胞に脱分極を起こし、そこに90mV前後の負電位変化を生ぜしめ、これが表皮上汗腺開口部を中心にして約1mVの−電位変化、抵抗の変化を生ぜしめる。これは1〜数秒のdurationをもつゆっくりした現象である。また全身的同時的現象である。図4はK.M.のテストデータであるが、心包経の中衝、大陵、曲沢、天池、三焦経の関衝、陽池、天井、糸竹空の8点で測定中、三焦経の陽池穴に置針し強叩針(5〜6回)すると、かなり強く痛みを感じた。すると叩針を始めて約3秒後に、全測定点で同時に約3秒間のdurationをもち、最高振幅約−100μVの2相性の同じようなパタンをもつGSR変化がみられた。
 このようにGSR現象は、振幅約1mV前後、duration(持続時間)1〜数秒、−電位変化、全身的、同時的、同一的パタンという特徴をもつ。

これに対し、経絡現象はどうであろうか(図5)。上と同一被験者K.M.の三焦経陽池に置針のみ行なって叩針を行なわないと、置針後約16秒半後に、三焦経の井穴、陽池、天井で+電位、振幅57〜128μV、duration約0.65秒、連続して−電位57〜129μV、duration1.75秒、更に続いて+電位、最大振幅井穴で200μV、duration 4. 3秒という3相性の電位変化が生じている。これらの三焦経の諸点での変化より約0.53秒遅れて、心包経の中衝、大陵、曲沢で−電位変化、振幅の最高は中衝で85μV、duration 1.69秒、続いて−142μV、duration 3.85秒の2相性の−電位変化が生じている。

 以上のところから、心包、三焦両経で反応パタンが同一でないこと、両経絡の反応生起に時間的ズレがあることがわかった。ところで心包経と三焦経は陰陽をなし、心包経は腕の内側の中央ラインを走り、三焦経は腕の外側の中央ラインを通っている。GSRを生ぜしめる交感神経の分布からみると、心包も三焦もおおよそ胸椎1〜3のデルマトームに属する。従ってGSRなら、心包、三焦の諸測定点で同時に生じていいはずであるが、心包経の諸点では、三焦経の諸点より約0.53秒遅れて生じている。これは交感神経の興奮による全身的同時的反応のGSRではない。更にパタンが心包、三焦の両経で異なることからも、GSRではないことがわかる。経絡反応と考えることが妥当であろう。
 三焦経と心包経の間の連絡であるが、上のデータからは、どこで三焦経の興奮が心包経に伝わっていったか判らない。伝統的な経絡理論によると、三焦経の外関から心包経の内関に達したと考えられよう。しかしこのデータからは判然としない。いずれにしてもこのデータからわかることは、三焦経への刺戟が、それと陰陽関係にある心包経に0.53秒を要して伝わっていったということである。

 次に、経絡反応はGSRのような神経他反応と違って、反応のスピードが非常に遅い。神経軸索の中を活動電流が走る速度は、神経繊維の太さ,有鞘か無鞘かによってかなり異なるが、0.5m/sec〜100m/secである(9)。これに対し、後述するように、経絡の中を気のエネルギーあるいはそれの電気現象化したものが通過するスピードは、数センチメートル〜20cm〜40cm/secであり、最も早くても4 m/sec である。従って気の流れは、紙送り1.5cm/secのデータでも経絡上の諸測定点で時間のズレを見出すことができる。図5のデータを細かく分析してみると、指尖にある心包井穴(中衛)より、手首にある大陵での反応は約0.038秒早い。両経穴間の距離を16cmとすると、気の流れ速度は421cm/secとなって神経インパルスなみに早い。三焦経の諸点での反応をみると、陽池〜天井間では陽池の方が天井よりも0.077秒早い。両経穴間の距離を約30cmとすると、気エネルギーの速度は389cm/secとなる。
 上のことで興味のあることは、陽池刺戟で生じた気のエネルギーの伝導方向が、心包経では手首の大陵点の反応が第4指尖の中衛点の反応より早い、つまり手首から指尖に向かって流れた(これは陰経の下から上への方向と一致する。針灸医学では手を上にあげた位置で上下を決める)のに対し、三焦経では手首の陽池が肘後方の天井より反応が早い。これは手首から肘の方へ流れたことを意味する。これも古来からの説,陽経では上から下へ流れるという説と一致する。
 この被験者は刺戟に敏感で、陽池での挿針,叩針が非常に痛かったそうである。このような敏感な人では、刺戟が大きいと気の流れも通常と追って非常に早くなるように思う。ただし逆の場合もみられる。

 次に、経絡反応のもう一つの特徴と思われるのは、井穴(指尖部),兪穴(背部)、募穴(胸腹部前面)で経絡電気反応がよくみられ、経絡の途中の諸点では電気反応,知覚反応が少ないことである。図6をみよう(被験者K.Ma♀)。肺経の井穴、大淵、尺沢、中府(募穴)で測定。井穴に刺戟のための挿針、置針し、電気刺戟(既述のものと違う電気刺戟器を使う)をサイン波、0.5V、10c/sで与える。刺戟開始後約26秒で少し痛いと慈し、井穴でのみ+電位変化(振幅260μV,dura-tion 3.84秒)が生ずる―井穴でのみの反応であるからGSRとは断定しがたい―。ついで第1反応終了時から14.76秒後に再び井穴でduration 1.15秒、120μVの+電位変化が生じ、中府では井穴での第1反応終了時から16.61秒後にI30μV、duration 1秒の−電位変化が生じている。井穴から中府に至る途中の点では反応はみられない。
この井穴での2反応と、中府での反応との間の時間的ズレ(1.85秒)が、経絡の気のエネルギー移動速度によるとすると、井穴〜中府間の距離を約80cmとすると、180cm/1.85sec=43cm/sec つまり気の流れ速度は約43cm/secとなる。
 図7も同一被験者の同じデータの約18分後のものであるが、ここでも電気刺戟によって肺経の気エネルギーが活性化し電気反応を示すが、指尖の井穴と背部の肺兪穴のみで反応がみられる。
 以上のように経絡反応では、経絡上の途中の諸点はあまり反応を示さず、井穴や募穴、兪穴(背部)で多く反応がみられるのが一つの特徴である。